脊柱管狭窄症2

手術を勧められて


キーワード

脊柱管狭窄症 モビリゼーション 重力負荷

 

はじめに

 高齢者に差し掛かる患者さんの健康問題に取り組むことは、大変やりがいのあることであり、人生経験豊富な方と向き合うことで、治療家として得るものは大きい。

年齢的にすでに抱えている病状や加齢に起因する身体の変調が多く見受けられ、若年者に比べると回復に時間を要することが多い。

治療院に訪れる患者さんの中で最も多いのが腰痛で60代、70代の方が多い。

そのうち下肢痛を伴った症例も多く見受けられる。

下肢痛を引き起こす疾患で、先ず頭に浮かぶのは腰椎椎間板ヘルニアであるが、そのほかにも下肢痛の原因となる多くの疾患がある。

しかし、今日、ほとんどと言っても良いくらい下肢痛を伴った腰痛は、整形外科などで腰椎椎間板ヘルニアまたは脊柱管狭窄症と診断を受ける場合が多いように思われる。

それでは何故、椎間板ヘルニア/脊柱管狭窄症と診断されてしまうのか、原因の一つはMRIやCTを始めとした画像診断装置の普及であろう。

画像に写ってしまう為、とにかく短絡的にこれが原因だと診断してしまっているのではないだろうか。

今回の症例もCTで椎間関節変形および狭小化が認められ、臨床所見でも脊柱管狭窄症所見が認められたので、脊柱管狭窄症と判断し施術を行った。

 

症例

69歳 男性 無職(9年前定年退職)

身長 175cm 体重70kg

週1回ゴルフ(現在は休み)

 

主訴

腰部痛、右下肢の痛み痺れ

 

既往歴

3年前 大腸ポリープ切除

2年前 前立腺肥大(毎日薬を内服) 尿が出にくい

昨年2月に脊柱管脊柱管狭窄症と診断される。

 

現病歴

昨年2月からゴルフ中に腰部に違和感。

徐々に症状が強くなっていき腰部~右下肢へ疼痛(つっぱるような痛みと軽度しびれ感)のため歩けなくなった。

20mも歩くと疼痛が増強し、休まなくては歩けなくなる。少ししゃがんで休むとまた少し歩ける。そこで、整形外科でMRI、CT検査をし、腰部脊柱管狭窄症と診断を受ける。数百メートルの歩行で痛みやしびれが増幅する典型的な間欠性跛行がある。

第1腰椎~第5腰椎が変形、骨棘があり、それが原因の脊柱管狭窄症と診断された。

この間鎮痛剤やビタミン剤など処方され服用してきたが変化なく、30年前より毎週ゴルフをしているが、現在は痛くて出来ない。

運動不足からか体重が7kg増加する。

朝が比較的に楽で午後になると辛く体が前傾してくる。

駅まで徒歩10分であるが、その間2回は休まないと駅まで行かれない状況。

半年前ほど硬膜外ブロックを試すが効果なし、神経根ブロックは一時軽減しまた戻る。

現在は処方された痛み止めを服用している状態で、D.rからは手術を勧められており、判断は患者さんに委ねられており、迷っている状態。

ご友人の紹介で当院にご来院されました。

 

家族歴

特記事項なし

 

検査所見(初検時)2016年 1月14日

血圧 130/82 脈拍72/分

視診:

発赤、腫脹、熱感、萎縮、側弯なし、やや疼痛回避姿勢あり、腰椎前弯減少

姿勢検査:

頭部前傾姿勢、後傾骨盤

 

可動域検査:

<胸腰部>

屈曲  30度

伸展  0度

左回旋 10度

右回旋 5度

左側屈 10度

右側屈 5度

 

<股関節>

左屈曲 100度

右屈曲 100度

左伸展 0度  

右伸展 -10度

左外転 40度 

右外転 40度

左内転 20度

右内転 20度

左外旋 20度

右外旋 20度

左内旋 10度

右内旋 10度

 

整形学検査:

バレ・リーウ徴候(-)、ソート・ホールテスト(-)、バルサルバ検査(-)、デジュリン3徴候(-)、片足立ち伸展テスト(+)、棘突起叩打テスト(+)、SLRテスト(-)、ブラガードテスト(-)、膝曲がり徴候 左(-)/右(+)、大腿神経伸展テスト(-)、マイナー徴候(-)、膝屈曲テスト(-)、鎮痛傾斜徴候(+)、梨状筋テスト(-)、ケンプテスト(+)、踵・つま先歩行テスト(-)

 

神経学検査:

触覚検査 右L4、L5領域やや知覚鈍麻

 

反射:

C5、6、7、 L4、S1 すべて正常

 

徒手筋力検査(MMT)

全て5(正常)

 

触診:

L4/L5/S1間の右椎間関節に圧痛と放散痛

腰椎軽度後弯、右起立筋・右殿筋・右ハムストリング筋スパズム、

頸椎前弯減少(ストレートネック)、

両仙腸関節機能低下、

脊椎全体フィクセーション(特に腰椎伸展、胸腰移行部、上部頸椎)

 

検査所見 4月22日(10回目)

視診:

発赤、腫脹、熱感、萎縮、側弯なし、腰椎前弯減少

姿勢検査:

頭部前傾姿勢

 

可動域検査:

<胸腰部>

屈曲  40度

伸展  20度

左回旋 20度

右回旋 30度

左側屈 30度

右側屈 40度

 

<股関節>

左屈曲 120度

右屈曲 130度

左伸展 5度  

右伸展 5度

左外転 60度 

右外転 75度

左内転 20度

右内転 25度

左外旋 30度

右外旋 30度

左内旋 15度

右内旋 25度

 

整形学検査:

バレ・リーウ徴候(-)、ソート・ホールテスト(-)、バルサルバ検査(-)、デジュリン3徴候(-)、片足立ち伸展テスト、棘突起叩打テスト(-)、SLRテスト(-)、

ブラガードテスト(-)、膝曲がり徴候 左(―)/右(-)、大腿神経伸展テスト(-)、マイナー徴候(-)、膝屈曲テスト(-)、鎮痛傾斜徴候(-)、梨状筋テスト(-)、ケンプテスト(-)、踵・つま先歩行テスト(-) 

 

神経学検査:

触覚検査 正常

 

反射:

C5、6、7、L4、S1 すべて正常

徒手筋力検査(MMT):

全て5

 

画像所見

 

医学的評価

第1,2,3,4,5腰椎脊柱管狭窄症。第5腰椎分離(D.rのコメントによる)

 

カイロプラクティック評価

腰の可動域を全方向調べたところ、屈曲動作は概ね問題ない様子ですが、伸展は完全に制限があり、股関節も屈曲しており伸展制限が著しく、右側に過重をかける動作や腰を捻る動きで坐骨神経痛が出現することが確認できました。骨盤に存在する仙腸関節という可動部分の両側に固さがあり、脊椎全体の可動性が低下していることで、日常および消防士という過去の職歴から、通常より重力負荷が下部腰椎への集中した結果であると考えました。

画像検査では、L2/3椎間、L3/4椎間の骨棘および狭小化が顕著に確認できますが、腰椎の傾きや臨床症状からL4/5椎間およびL5/S(腰仙関節)が右下肢痛の原因と推察しました。

どちらかと言えばL5/S1直接の原因と考えました。

理由は、神経学検査、臨床症状においてL2/3椎間、L3/4椎間症状が認められないことと、

右L4/5・L5/S椎間関節狭小による、疼痛回避による上位腰椎が左へ傾いているという、経験上の見解からの推察です。

 

治療計画(カイロプラクティック治療計画)

<治療にあたる前の基本的な考え、および方針>

機能的な問題を改善させることが一番の目的であり、私の重要視しているところです。

機能的な問題とは背骨の機能、動きを正しくする事。

背骨の歪みは、実際は簡単には治らないと考えており、歪みは障害部位に対する補正である場合も少なくないので歪みに執着すると症状は悪化する。

その事を理解した上で身体を調整することが重要で機能的歪みを改善することで、構造的や器質的な問題、日常の大きな癖がなければ自然と正しい状態、位置関係に正すことが出来ると考えています。

重要な事は身体が正しく機能するという事です。

脊柱、骨盤、股関節を中心に関節モビリゼーションを行なうことで、神経の通り道を拡げ、運動神経・自律神経を調整し 骨格・骨盤の歪み、関節の動き、偏った重心を改善させます。

痛み、しびれの多くの原因は、関節の機能異常により、偏った重心が特定の部位に負荷を集中させることにより、軟骨など組織が弱くなり、変性することで循環障害が起きていることと考え、関節の動きを改善させることで、関節一つ一つに栄養素の交換と老廃物の排泄を促すことができるのです。

 

矯正(モビリゼーション)による効果

・関節負荷の軽減、減圧、弾力・支持性の改善

・神経の通り道を拡げ、神経の伝達を活性化

・自律神経・ホルモンのバランスの改善

・脳脊髄液の還流促進・髄膜が弛緩

・代謝効率の向上

 

リスクマネージメント

基本的にアジャストメントは行わない

モビリゼーションは、関節を受動的運動範囲に留めたままで行い、素早いスラストや力を加えない。

脊柱管狭窄症のような椎間病理は絶対禁忌ではないが相対禁忌という認識

神経症状の増悪

馬尾症候群

腹部大動脈の破裂といった重大な副作用を回避

 

マニピュレーションは、鎮痛そして脊椎の生体力学的問題の構造的改善を促す、比較的安全で効果的な保存療法である。しかし、どのような治療方法でも合併症はありうる。まれではあるが、重大な神経的合併症と血管障害が共に報告されている。

マニュピレーションによる合併症の予防

手技(マニュピレーション)療法による事件や事故は、患者への注意深い問診や検査結果の評価で防ぐことができる。基礎疾患や薬の服用、例えば長期間のステロイド投与や抗凝血剤療法についても考慮しなければならない。細かな念入りの検査が行わなければならない。適切なテクニックの使用は不可欠であり、カイロプラクターは有害になると思われるテクニックを避けなければならない。(1)

 

補助療法

補助療法としてスーパーライザーの照射と柔軟性向上の為のストレッチング

 

スーパーライザーは、あたたかい光(特殊な波長)で障害のあるところの血行を改善し症状を緩和します。また、神経に直接作用してストレスなどで緊張している神経を平常な状態に戻し血流改善効果によって痛みの悪循環を改善・解放することができ、多くの症状に効果を発揮する。

 

スーパーライザー 4つの効果

<血行の増進>

血管の直径が1割以上大きく拡張して、血流量が1.5~2倍増加します。

 

画像 東京医研 スーパーライザー 資料より

 

数分の照射で30分~120分、この状態が継続し血流が増加することで、組織に蓄積した痛み物質を除去し、組織の再生を促進させる。

 

<痛覚の抑制>

痛みを伝える神経を抑え、痛みの信号を伝えにくくする。

 

<痛み物質の放出抑制>

痛みを引き起こすインターロイキンなどの痛みの物質が免疫細胞などから放出されるのを抑制する。

 

<組織の再生>

細胞の活動を促進 体の形を形成する、たんぱく質・コラーゲンの分泌を促進する。

 

<ストレッチの目的および考え>

・筋緊張を低下させる

・関節可動域、柔軟性の改善

・痛みの閾値が向上し疼痛の緩和

・血液循環の改善

・障害予防

・競技パフォーマンス向上(2)

 

 

治療経過

2016

1月14日 初検日  特に変化はなし

1月18日(2回目)特に変化はなかったが、駅まで歩くのが少し楽に感じた。 

1月26日(4回目)腰痛、下肢痛 やや軽減

2月22日(8回目)痛み、痺れ、3割軽減、関節可動域が全体的に向上 

5月13日(14回目)痛み、痺れ約4割残存

7月29日(17回目)痛み、痺れ約4割残存

 

以後年数回のメンテナンス

 

2019

3月26日 時々朝の腰の痛みがあるが下肢の痺れはない

 

 

 

 

 

初診時から強い下肢痛を有していた。また右下肢には坐骨神経に沿った痛みが認められ、この痛みが日常生活動作およびゴルフ動作を困難にし、間欠性跛行症状と考えられた。

静的アライメントは腹臥位において、腰椎・骨盤の後傾変位が認められ、椎間関節・脊柱管を拡げ神経痛を回避していると考え、脊椎全体の椎間関節および仙腸関節の機能が低下しており、荷重が左に偏り、右臀部、大腿後部の緊張が亢進、腰椎が後弯していた。

仰臥位いて股関節の柔軟性が低下しているのが確認できた。

フィクセーションは間接的に腰椎や股関節の動きに影響を及ぼし、下部腰椎に重力負荷が集中することで腰部脊柱管狭窄を悪化させる要因であると考え、フィクセーションを改善することで下肢痛の解消だけでなく、痛みを回避するために生じる二次的な機能障害や代償動作を抑えるためにも有効と考えた。

CT画像において、退行性変化が認められるが、やや知覚鈍麻はあるものの神経学検査・反射・MMTにて運動神経の低下・減弱が確認できなかったので、症状改善の可能性は高いと判断しました。

 

治療内容

・全脊椎のモビリゼーションによって関節運動機能を改善させる

(特に重要視している部位 上部頸椎、頸椎胸椎移行部、胸椎腰椎移行部、仙腸関節、股関節)

・腰椎椎間関節全部、腰仙関節の牽引操作、足方へ牽引マニュピレーション

・スーパーライザー照射

(星状神経節、L4/5/S1)

・ストレッチング

特に前屈動作により脊柱管を拡げる

(股関節中心に筋膜、筋線維を伸長し柔軟性を向上させる)

 

 

脊柱管狭窄症が改善する根拠

1. 腰椎椎間関節の減圧

2. 脊柱管の前壁、後壁の長さの増大

3. 脊柱管内の黄色靭帯の伸張と膨隆の減少

4. 神経根の伸張と断面積の減少

5. 脊柱管の全体的な容積の増大と神経根の体積の減少

6. 神経根の弛緩および断面直径の増大(3)

 

考察

加齢による椎間板の変性の進行により、30歳以降であれば徐々に水分が消失していき、高頻度で潜在的に椎間板が変性しており、脊柱管は前方の椎体と呼ばれる円柱状の骨と椎間板、後方の棘突起・椎弓によって囲まれた管状の構造をし、脊柱管の中には脊髄・馬尾神経が通り、さらに左右に枝分かれした神経が上肢や下肢などの体の各部へと伸びている。

腰部脊柱管狭窄症は腰の部分で脊柱管が狭くなり、その内部にある馬尾や神経根が圧迫され種々の下肢症状・会陰部症状を生じる疾患です。脊柱管が狭くなる原因としては、生まれつき脊柱管が狭いことが深く関与していると考えられるが、二分脊椎も否定できないのではないか。(2枚のCT画像のみ当院に持参された、MRI・CT画像すべてあればもっと正確に判断できるのであるが、第5腰椎棘突起および椎弓部分が二分脊椎のような分離しているようにも見える)

加えて加齢による周囲の骨の変形や黄色靭帯の肥厚、椎間板の突出、脊椎すべりの発症などのさまざまな要因が複合的に関与していると考えられています。無症候性の椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄も多々あると考えられる。

この症例は、初診時に全てではありませんがCT検査画像のコピーをご持参いただき、ある程度は脊柱の状態が推測でき、正しいアプローチが選択できたのではないかと考えられます。

坐骨神経痛および坐骨神経痛様の下肢痛を起こす疾患として、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症の他、腰椎サブラクセーションによる神経根刺激および椎間関節の不適合による放散痛、仙腸関節のサブラクセーションによる放散痛および腸脛靭帯やハムストリング筋の緊張による筋肉痛、梨状筋症候群を始めとした神経絞扼障害、変形性脊椎症など様々な疾患が考えられる。

今回の症例はCTの画像所見では腰部脊柱変形・骨棘が存在していたが、臨床症状で6割程改善した。

本症例は、フィクセーションの除去、椎間関節の牽引による除圧などの施術で自覚症状の6割の改善が認められたので椎間関節症・狭小化による神経根周囲の炎症刺激が原因の神経症であったと推察した。

現在は症状が一進一退であるが、ゴルフにも復帰することができ、駅までの道のりも休まず歩くことができるまで回復した。

結果的に通院回数と時間を多く要しているが、変形の進行度や手術を回避できていることを鑑みれば良好ではないかと考えます。

 

参考文献

 

(1)   中塚祐文 監訳 カイロプラクティック基礎教育と安全に関するWHOガイドライン日本語訳 第4版P30-32 2013

(2)   鈴木重行 編集 IDストレッチング 三輪書店 東京 P16 2002

(3)   J.Wコックス 著 腰痛の診断と治療 エンタプライズ 東京 P53 2000

その他の参考文献

佐藤昭夫 竹谷内宏明 監修 エイジング・ボディ エンタプライズ    東京 2004